ノンアルコールビールの造り方には、大きく2つの道があります。ひとつは発酵を抑えて、そもそもアルコールをつくらない方法。もうひとつが、いったん普通にビールを醸造してから、アルコールだけを取り除く方法です。
後者は「脱アルコール製法」と呼ばれます。文字にすると簡単そうですが、実際にはとても難しい工程です。今回は、その中身を見ていきます。
アルコールを取り除くとき、香り成分の多くも一緒に失われてしまいます。
そのため脱アルコール製法の技術は、「どう抜くか」以上に、「どう香りを守り、取り戻すか」に注がれています。
いちばんの難所は「香りが一緒に逃げる」こと
ビールの香りは、発酵の過程で生まれるエステル類や高級アルコールといった成分が担っています。やっかいなのは、これらの成分が、エタノールと似た性質を持っていることです。
つまり、アルコールを抜こうとすると、香りの成分も一緒に抜けていってしまいます。研究では、脱アルコールの工程でエステル類や高級アルコールが大きく失われることが報告されています(減少の幅は、ビールや条件によって幅があります)。
「ビールを造ってから抜くのだから、香りは残っているはず」と思われがちですが、実際にはその逆で、いかに失わせないかが勝負なのです。
抜き方は、大きく2系統
1. 熱を使う方法(蒸留系)
アルコールは水より低い温度で蒸発します。その性質を使って先に飛ばす方法です。ただし熱は香味を損なうため、いかに低い温度・短い時間で処理するかが技術の要になります。
流下膜式・スピニングコーン……液を薄い膜状にして短時間で処理し、熱による負担を減らす工夫です。
2. 膜を使う方法(膜分離系)
非常に目の細かい膜を使い、熱をかけずに分ける方法です。逆浸透膜(RO膜)やナノろ過膜が使われます。
水とアルコールなど小さな分子が膜を通り、糖や香味成分は手前に残ります。膜を通った側からアルコールを除き、残りを戻す、という流れです。熱を使わないぶん、蒸留に比べると香味への影響が小さいとされていますが、それでも香り成分の損失は避けられません。
失われた香りを「取り戻す」技術
どの方法でも香りは失われる——それが分かっているからこそ、作り手はその先に取り組んでいます。
脱アルコールの前や工程の途中で香り成分をいったん集めておき、後から戻すという考え方です。浸透気化法や吸着法など、香り成分だけを選んで捕まえる方法が研究されています。
仕込みを濃くしておく
脱アルコール前のビールをあえて濃厚に仕込み、失われるぶんを見越しておく工夫もあります。
「抜いて終わり」ではなく、抜いたあとに組み立て直す。そこにこの製法の奥深さがあります。
もう一方の道も、同じように難しい
発酵を抑える方法にも、固有の難しさがあります。発酵由来の香り成分がそもそも生まれにくく、麦汁由来の風味が残りやすいため、原料の選定やホップ・香料の設計によって味わいを組み立てていく必要があります。
・発酵を抑える道 …… 香りが生まれにくいという難しさ
・アルコールを抜く道 …… 造った香りが失われるという難しさ
向き合っている課題が違うだけで、どちらも作り手の技術と工夫の結晶です。協会は、製法に優劣をつけません。
一杯の裏側を知ると、味わいが変わる
普段なにげなく飲んでいる一杯の裏側には、こうした技術の積み重ねがあります。
缶の表示に「脱アルコール製法」と書かれていたら、その一杯は「抜いて、取り戻す」という道のりを経て手元に届いたということ。そう思って飲むと、少し違って感じられるかもしれません。飲まない時間を、もっと自由に、もっと楽しく。
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無料で検定を受ける →先に学びたい方は 公式テキスト(全文無料)・Brányik T, Silva DP, Baszczyňski M, et al. “A review of methods of low alcohol and alcohol-free beer production.” Journal of Food Engineering, 108: 493-506, 2012.
・“Beer aroma recovery and dealcoholisation by a two-step pervaporation process.” Journal of the Institute of Brewing, 2019.(DOI: 10.1002/jib.587)
・Sohrabvandi S, et al. “Alcohol-free Beer: Methods of Production, Sensorial Defects, and Healthful Effects.” Food Reviews International, 2010.
・各メーカー公開情報(製法・原材料表示)

