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ホップの科学――ノンアルコールビールの
「香り・苦味・健康効果」を支える植物

ノンアルコールビールの味わいを語るとき、「麦芽」と並んで欠かせない原料がホップです。しかし「ビールに入っている植物」以上の知識を持つ人は少ないかもしれません。

本コラムでは、ホップの成分・役割・健康効果・品種の多様性を科学的視点から解説します。ノンアルコールビールの製造においてホップがいかに重要かも、あわせてお伝えします。

ホップとは何か

ホップ(学名:Humulus lupulus)はアサ科のつる植物で、ビールに使われるのはメス株の「毬花(まりはな)」です。その内部に「ルプリン」と呼ばれる黄色い腺体があり、苦味・香り・保存性に関わる有効成分が凝縮されています。

ドイツ産ノンアルコールビールの多くが原材料を「麦芽・ホップ・水」だけに絞っているのも、ホップの豊かな機能があってこそです。

▶ ドイツビール純粋令とシンプルな原材料について(column-14)

ホップの主要3成分

① α酸(アルファ酸)――苦味の源

α酸(フムロン類)は加熱によりイソα酸に変換され、ビール・ノンアルコールビール特有の心地よい苦味を形成します。アルコールのない分、甘味が前面に出やすいノンアルコールビールでは、このイソα酸による苦味のバランスが「ビールらしさ」の鍵を握ります。

② β酸(ベータ酸)――保存性と抗菌作用

β酸(ルプロン類)は抗菌・抗酸化作用を持ち、雑菌から製品を守る天然保存料として機能します。歴史的には、インドへの長距離輸送に耐えるビール(IPA)にホップが大量使用されたのも、この抗菌効果が目的でした。

③ 精油成分――香りを決める数百種の化合物

ミルセン・リナロール・ゲラニオール・ファルネセンなど数百種類の精油成分の組み合わせが、品種ごとに異なる個性的な香りを生みます。柑橘・フルーティー・フローラル・ハーバル……ノンアルコールビールの香りの多様性は、ホップ品種の選択によるところが大きいのです。

ホップの健康効果――科学的エビデンス

睡眠促進効果

ホップには「2-メチル-3-ブテン-2-オール」という成分が含まれており、中枢神経系に働きかけて鎮静・睡眠促進作用を示すことが研究で明らかになっています。

【スペイン・エストレマドゥーラ大学の研究(PLOS ONE, 2012年)】

夕食時にノンアルコールビールを飲んだ看護師グループ(n=17)を対象とした比較試験で、
飲まないグループと比較して入眠時間の短縮・睡眠品質スコアの改善・翌朝の不安スコアの低下が確認された。

出典:Franco L et al., “The Sedative Effect of Non-Alcoholic Beer in Healthy Female Nurses,” PLOS ONE, DOI: 10.1371/journal.pone.0037290, 2012.

※なお同著者グループによる別研究(動物実験)は Acta Physiologica Hungarica(2012年)に掲載されています。本データボックスはヒト対象の看護師研究に基づきます。

アルコールは一見眠りを誘いますが、実際には睡眠の質を低下させることが知られています。ノンアルコールビールがホップの力で「飲んでよく眠れる」可能性があることは重要な知見です。

▶ 睡眠とノンアルコールビール(column-02)

抗炎症・抗酸化作用

イソα酸やポリフェノール類の抗炎症・抗酸化作用については複数の研究で報告があります。慢性的な軽度炎症が生活習慣病の根底にあるとされる中、日常的にホップ成分を摂取することへの関心が高まっています(現時点では臨床応用の段階には至っていません)。

主要ホップ品種と産地

品種産地特徴的な香り
ハラタウドイツハーバル・フローラル・スパイシー。ドイツ系の定番
ザーツ(サーツ)チェコ上品なアーシー・スパイシー。ノーブルホップの代表
カスケードアメリカグレープフルーツ・柑橘系。クラフトビールを席巻
シトラアメリカ強烈な柑橘・トロピカル。現代IPAの象徴
ネルソン・ソーヴィンニュージーランドホワイトワイン・グリーンぶどう。洗練された香り
信州早生日本・長野柚子・和柑橘。国産クラフトで注目

ノンアルコールビールとホップの難しさ

ノンアルコールビールの製造では、アルコールが苦味・香りの「溶媒」として機能しないため、同じホップを使っても通常ビールとは異なる風味になります。この問題を解決するため、各メーカーは「ドライホッピング(後ホッピング)」や専用品種ホップの活用などで対応しています。

▶ ノンアルコールビール製造の科学(column-06)

まとめ

ホップは苦味・香り・保存性をビールに与えるだけでなく、睡眠促進・抗炎症・抗酸化などの健康機能を持つ植物です。アルコールなしにホップの恩恵を受けられるノンアルコールビールは、機能性飲料としての側面も持っています。品種や産地の違いを意識しながら飲むと、ノンアルコールビールの世界はさらに広がります。

参考文献・参考情報
  • Franco L et al., “The Sedative Effect of Non-Alcoholic Beer in Healthy Female Nurses,” PLOS ONE, DOI: 10.1371/journal.pone.0037290, 2012(看護師対象のヒト試験)
  • Franco L et al., “The sedative effects of hops (Humulus lupulus), a component of beer, on the activity/rest rhythm,” Acta Physiologica Hungarica, 99(2): 133-139, 2012(クウズラを使った動物実験)
  • Stevens JF, Page JE, “Xanthohumol and related prenylflavonoids from hops and beer,” Phytochemistry, 2004
  • Karabín M et al., “Biologically Active Compounds from Hops and Prospects for Their Use,” Comprehensive Reviews in Food Science and Food Safety, 2016
  • 農研機構「国産ホップの開発状況」(2023年)
  • 日本ビール協会「ホップについて」

※本記事で紹介した研究は現時点での学術報告に基づくものです。効果には個人差があり、医療的効果を保証するものではありません。

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